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横浜地方裁判所 昭和55年(ワ)2024号 判決

原告

小野二三男

ほか一名

被告

丸市運輸倉庫株式会社

ほか一名

主文

被告らは連帯して原告らに対し、それぞれ金一〇一八万二〇四五円及びこの内それぞれ金九三八万二〇四五円に対する昭和五五年九月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決の第一項は仮りに執行することができる。

事実

第一双方の申立

一  原告ら

1  被告らは連帯して原告らに対し、それぞれ金一二四〇万二一五二円及びこの内金それぞれ金一一四〇万二一五二円に対する昭和五五年九月二五日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二双方の主張

一  請求原因

1  事故の発生

事故発生時 昭和五五年四月二二日午前九時一七分頃

場所 前橋市下小出町六六番地先交差点

加害車 大型牽引自動車(品川一一か九二〇六)

右運転者 被告 神隆治

被害車 原動機付自転車(前橋市み九六四四)

右運転者 小野高好

態様 小野高好が被害車を運転して渋川方面から高崎方面に向つて事故地点の交差点を直進しようとし、加害車が渋川方面から来て同交差点を左折しようとして被害車と衝突し、小野高好は死亡した。

2  責任

(一) 被告神は、加害車の運転手として、左折するときは左後方の安全を確認するとともに、交差点内の安全を確認すべき義務があるのにこれを怠つた過失があるので、民法七〇九条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

(二) 被告会社は、加害車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

3  損害 合計金四四八〇万四三〇五円

(一) 葬儀費 金七〇万円

(二) 逸失利益 金三〇一〇万四三〇五円

(1) 小野高好は、父の原告二三男の経営する株式会社愛知大口店(ふとん店)の経営に当るため、昭和五四年三月関東学院大学経済学部を卒業と同時に、ふとん店経営の修業の目的で前橋市所在の丸二ふとん店で働いていたが、昭和五五年五月から父の経営するふとん店で働く予定であつた。従つて逸失利益の算定に当つては男子の平均年収を下ることはないので、これによるのが相当である。

年収金三四〇万八八〇〇円(昭和五五年度賃金センサス一巻一表全年齢男子平均年収)

生活費控除五〇パーセント

ライプニツツ係数一七・六六二七(二三歳から六七歳まで四四年間)

(2) 原告らは、小野高好の父母として、右逸失利益の損害賠償債権を、各二分の一あて相続した。

(三) 慰藉料 金一二〇〇万円

小野高好は、原告らの二人の男児のうちの長男で、前記のとおり父のふとん店を継いでその経営に当る予定であつたもので、親、兄弟思いで病気一つしたことのない頑健な男子であつた。その慰藉料は金一二〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用 金二〇〇万円

原告らは、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の費用として金二〇〇万円を第一審判決時に支払う旨約した。

4  填補

原告らは、自賠責保険から金二〇〇〇万円の支払を受けた。

5  よつて原告らは被告ら各自に対し、それぞれ金一二四〇万二一五二円及びこのうち弁護士費用を除いた各金一一四〇万二一五二円に対する不法行為後の昭和五五年九月二五日(訴状送達の日の翌日)から支払ずみにいたるまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の(一)の事実は否認する。

同2の(二)の事実は認める。

3  同3の事実は不知。

4  同4の事実は認める。

5  同5の主張は争う。

三  抗弁

1  免責

被告神は、加害車を運転して本件事故地点の交差点を左折するに当り、左折の合図をし、減速除行したもので、同人に過失はない。本件事故は、小野高好が被害車を運転して、左折中の加害車の後方から進行してきて、前方不注視のため加害車の左側部に衝突したもので、同人の一方的過失に基くものである。

加害車に構造上の欠陥、機能に障害はなかつた。

2  過失相殺

仮りに被告神に過失があるとしても、小野高好の前記過失は重大であるから、賠償額を定めるにつき斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実のうち、加害車に構造上の欠陥機能に障害はなかつたとの事実は不知、その余の事実は否認する。

2  同2の事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  責任

1  原本の存在成立に争いのない甲第一、第二号証、成立に争いのない甲第五号証の五、第六号証の一ないし五、原告小野二三男本人尋問の結果によつて成立を認める甲第五号証の一ないし四、被告神隆治、原告小野二三男各本人尋問の結果によると次の事実が認められる。

(一)  本件事故地点の交差点は、北(渋川方面)から南(高崎方面)に通ずる国道一七号線と、東(伊勢崎方面、東部バイパス)から西(群馬方面)に通ずる道路が交差する十字路交差点で、交差点北側からの道路は中央分離帯があり、片側二車線であるが、交差点手前で東側から西側に順次、直進と左折(東側)の表示のある車線、直進の表示のある車線、右折(西側)の表示のある車線が路面に表示され、その幅員の合計は約九メートル、車道の東側に幅員三・五メートルの歩道がある。交差点東側からの道路は各二車線で、車道の幅員の合計が約一二・九メートル、その車道北側に幅員三・五メートルの歩道がある。交差点の角はいずれも角切りがあり、交差点に接していずれの道にも横断歩道が設けられている。事故当時信号機による整理が行われ、正常に作動していた。本件交差点は車両の運行が多く、北側(国道一七号線)から入つて左折して東側(東部バイパス)に入る車両が多かつた。

(二)  被告神は、空車の加害車(全長約一五メートル)を運転して、時速約四五キロメートルで北から事故地点の交差点に向けて、歩道寄りの車線を左側を約一メートル余あけて進行していた。交差点の手前約三〇ないし四〇メートルの地点で左折の合図(ウインカー)をし、減速しながら交差点に接近した。加害車の進行方向(北から南)の車両信号が青であり、約一〇メートル位前を大型牽引車が左折したので、被告神は一時停止することなく、左前部のバツクミラーで左後方を確めたが写るものがなかつたので、大回りするように前部を右に振り、その後ハンドルを左に切つて左折を始めたが、その際の速度は時速約一〇キロメートルであつた。左折を始めてから間もなく衝突音を聞き、ブレーキをかけて約四メートル進行して停止した。加害車の左前部に擦過痕があつた。被告神は加害車の左前部バツクミラーに死角があることは知つていた。

(三)  小野高好は、通勤のため、被害車を運転して北側から本件事故地点の交差点に向けて道路左側を進行していた。本件交差点を北から南に直進しようとして、北側の横断歩道を越えて約八メートル進行した位置で加害車の左側前部に衝突し、転倒して車輪にまきこまれた。

2  右認定の事実によると、本件事故は大型車の左折事故で、被告神は加害車の左前部のバツクミラーに死角があることは知つていたので、左折するに当りその死角の部分の安全を確かめられないときは、一時停止してその部分にいるかも知れない車両をやりすごした後に左折するか、或は信号の変るのを待ち、直進車がなくなつた後で左折を開始すべきであつた。特に加害車の進行車線には左折車だけでなく、直進車もあることは、その路面の表示から明らかであり、しかも加害車の左側には一メートル余の車道部分が残つていたから、左側に寄つて進行する二輪車がいる場合を予想してその安全を計るべきであつたのに、死角のある左前部のバツクミラーを見ただけで、一時停止することなく大回り左折を開始した点に過失がある。

一方小野高好は、本件交差点は通勤のために通行していたから、北から交差点に進入する車両の多くが左折することは知つていたものと推認されるので、直進するときは他の車両、特に併進する車両があるときは左折のウインカーが点灯しても見難い位置にあり、しかも左折車のすぐ左横を進行しているため大型の左折車にとつては死角にあたり、互に左折による衝突を避け難い位置関係にあるので、その点十分注意して進行すべきところ、その点の注意が十分でなかつたものと、推認される。

しかし、被告神が左前方のバツクミラーを見た時被害車を発見し得なかつたのは、その死角にあたる加害車の前部の左側にいたためと推認されるところ、当時交通信号は北から南の方向に青信号であつたこと、加害車が左折を開始する直前大回りするため一度ハンドルを右に切つたこと、加害車のウインカーは側方にいる者にとつては見難い位置にあること、被害車の速度は、加害車が左折を開始して間もなく衝突した角度と、小野高好が加害車の側方からまきこまれた状況からみて加害車の速度とそれ程大きな違いはなかつたものと推認されること(加害車の前方約一〇メートルの位置に大型の左折車があつたため速度は出せなかつたものと考えられ、若しかなりの速度が出ていたものとすれば、加害車との衝突角度からみて、小野高好の転倒位置より更に左前方にとばされる筈である。)から考えて、小野高好の過失はそれ程大きなものではなく、その過失割合は被告神が九・五割、小野高好が〇・五割と認めるのを相当とする。

従つて被告神は民法七〇九条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

3  被告会社が加害車の運行供用者であることは当事者間に争いがなく、被告会社は自賠法三条但書の免責の主張をするけれども、加害車の運転者である被告神に前認定の過失がある以上、他の点について判断するまでもなく被告会社の免責の主張は理由がない。

従つて、被告会社は自賠法三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

三  損害

1  葬儀費

小野高好は、本件事故当時二三歳で、昭和五四年三月関東学院大学経済学部を卒業し、近く父の営む株式会社愛知大口ふとん店の経営に当る予定であつたことは原告小野二三男本人尋問の結果によつて認められ、これらの事実によると、小野高好の葬儀費は金七〇万円をもつて相当とする。

2  逸失利益

原告小野二三男本人尋問の結果によると、原告らの長男小野高好はふとん店の経営見習のため前橋市のふとん店に働いていたが、昭和五五年五月頃には父の経営する株式会社愛知大口ふとん店に戻つてその経営に当る予定であつたこと、大口ふとん店は店員四人と原告夫婦が仕事に当り、原告小野二三男の収入は手取り年金九〇〇万円を下らないことが認められるので、小野高好は少くとも賃金センサスの平均賃金を下らない収入を挙げ得たものと推認されるところ、本件事故により二三歳から六七歳まで四四年間年収金三四〇万八八〇〇円の割合による利益を失い、その間の生活費として五〇パーセントを控除し、ライプニツツ計算法(係数一七・六六二七)によつて中間利息を控除して事故時の現価に計算すると、金三〇一〇万四三〇五円となる。

そして原告らは、小野高好の父母として、その二分の一あてを相続した。

3  慰藉料

本件事案の内容、小野高好の年齢、職業ならびに原告小野二三男本人尋問の結果によつて認められる小野高好は原告らの長男で、大学卒業後間もなく原告らのふとん店の経営を継ぐ立場にあつたのを失い大きな精神的苦痛を蒙つたことからみてその慰藉料は原告ら各自につき金五〇〇万円と認めるのを相当とする。

四  過失相殺

小野高好に前認定のとおり〇・五割の過失があつたから、前記損害(総額金四〇八〇万四三〇五円)に右割合の過失相殺をすると、その残額は金三八七六万四〇九〇円(原告ら各自につき金一九三八万二〇四五円)となる。

五  填補

原告らが自賠責保険から金二〇〇〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないので、その残額は各金九三八万二〇四五円となつた。

六  弁護士費用

本件事案の内容、請求額、認容額その他諸般の事情を総合すると、原告らの弁護士費用は、各金八〇万円をもつて相当と認める。

七  結論

以上のとおり、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、各金一〇一八万二〇四五円及びこの内各金九三八万二〇四五円に対する不法行為後の昭和五五年九月二五日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるので正当として認容し、その余は理由がないので失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条但書、八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅原敏彦)

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